知ってびっくり!「しがらみ」の語源と変遷 〜人間関係の束縛を表す言葉の意外な始まり〜

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こんにちは、言葉の歴史探検家の深津文彦です。私たちが日常で何気なく使っている言葉には、思いもよらない成り立ちや変遷があります。今回は「しがらみ」という言葉に焦点を当て、その意外なルーツと時代による意味の変化をご紹介します。

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「しがらみ」の本来の意味は水中の構造物だった

現代では人間関係の煩わしさや社会的な束縛を意味する「しがらみ」ですが、その原義は全く異なる実物を指していました。

「しがらみ」は本来、「柵」を意味する「しがら」に接尾語の「み」が付いた言葉です。川の流れを制御するために、木や竹、石などを組み合わせて作った堰(せき)や柵(さく)のことを指していました。具体的には、川の流れを弱めたり、魚を捕まえたり、あるいは川の氾濫を防ぐために設置された水中の構造物だったのです。

祖父
祖父

やよい、『しがらみ』って言葉を使うことあるかい?

やよい
やよい

うーん、『しがらみがあって行けない』みたいに使うことがあるけど。人間関係のわずらわしさみたいな意味だよね?

祖父
祖父

そうそう、今はそういう意味で使われているね。でも元々はね、川に設置する木の柵や石組みのことだったんだよ。水の流れを調節したり、魚を捕まえたりするための実用的な構造物だったんだ

やよい
やよい

えっ!全然違う意味だったんだね!どうして人間関係の束縛みたいな意味になったんだろう?

祖父
祖父

それがね、なかなか面白い変化をしていくんだよ…

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「しがらみ」はどのように比喩的な意味を持つようになったのか

この実物を指す言葉がどのように今日の抽象的な意味に変化していったのでしょうか。その変遷過程を探ってみましょう。

物理的な障壁から心理的な束縛へ

この転換点は平安時代まで遡ります。古典文学作品、特に和歌などにおいて「しがらみ」は比喩的に使われるようになりました。川の流れを堰き止める「しがらみ」のように、人の心や行動を妨げる様々な障害や制約を表すようになったのです。

『古今和歌集』などで見られる使用例では、「恋のしがらみ」というように、恋愛感情によって自由を奪われる状態を表現する言葉として用いられていました。水の流れを阻む物理的な障壁から、人の心や行動の自由を阻む心理的・社会的な束縛へと、その意味は徐々に拡張されていったのです。

和歌に見る「しがらみ」の比喩的使用

10世紀の『古今和歌集』には、次のような和歌があります。

思ひやる 心のうちに しがらみを
結びて我が身 留めわたるかな

これは「あなたのことを思う心の中に、しがらみを作って自分の気持ちを抑え込んでいます」という意味で、物理的な「しがらみ」が心理的な束縛の比喩として使われています。

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江戸時代における「しがらみ」の広がり

江戸時代になると、「しがらみ」の比喩的な使用は一層広がりました。特に浮世絭師や俳人、劇作家たちによって、社会的な束縛や人間関係の煩わしさを表す言葉として定着していきます。

俳句や川柳に見る「しがらみ」

松尾芭蕉や与謝蕪村といった俳人たちも「しがらみ」を詠み込んでいます。例えば、芭蕉の弟子である向井去来の句には次のようなものがあります。

世の中の しがらみ解けて 夏の川

この句は、社会的な束縛から解放されたさわやかな気持ちを、夏の清流になぞらえて表現しています。

川柳においても、人間関係の煩わしさや社会的制約を「しがらみ」と表現する作品が数多く生まれました。

歌舞伎や浄瑠璃における「しがらみ」

歌舞伎や浄瑠璃の脚本にも「しがらみ」は頻繁に登場します。特に、封建社会における「義理」と「人情」の葛藤を描く作品では、主人公が社会的な「しがらみ」に苦しむ場面が多く見られます。

近松門左衛門の浄瑠璃『曽根崎心中』では、主人公の徳兵衛が社会的なしがらみから逃れられず、恋人のお初と心中するという悲劇的な結末を迎えます。ここでの「しがらみ」は、生きることを困難にする社会的制約として描かれています。

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明治以降の「しがらみ」の意味拡大

明治時代以降、日本が近代化する過程で「しがらみ」の意味はさらに広がりました。特に「旧弊」や「因習」との関連が強まり、社会改革を妨げる古い慣習や制度を指す言葉としても使われるようになりました。

文明開化と「しがらみ」

明治初期、西洋文明の導入に伴い、古い慣習や考え方は「しがらみ」として批判の対象となりました。福沢諭吉の『学問のすゝめ』では、旧来の身分制度や儒教的価値観が社会発展の「しがらみ」であると指摘されています。

文学作品に見る「しがらみ」

夏目漱石の『こころ』や森鴎外の『舞姫』など、明治文学の名作には「しがらみ」に苦しむ主人公が多く登場します。これらの作品では、伝統と近代、個人と社会の間で揺れ動く人間の葛藤が「しがらみ」という言葉を通して表現されています。

祖父
祖父

明治時代になると、『しがらみ』はどんどん社会的な意味合いが強くなっていくんだ

やよい
やよい

それって、日本が近代化する時に古い慣習とか考え方が障害に見えたからなの?

祖父
祖父

鋭いね!まさにその通り。新しい時代を作ろうとする人たちにとって、昔ながらの制度や考え方は『しがらみ』として感じられたんだよ。福沢諭吉なんかは、特にそういう視点で使っていたね

やよい
やよい

なるほど!だから今でも『しがらみを断ち切る』みたいな表現があるんですね

祖父
祖父

その通り。でも面白いのは、元々は水の流れを『止める』ためのものだったのに、今では人の自由を『妨げる』ものという正反対の意味合いになっていることだね

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現代における「しがらみ」の使われ方

現代では、「しがらみ」は主に「人間関係や社会的な束縛、制約」という意味で使われています。「しがらみを断ち切る」「しがらみから逃れる」といった表現が一般的です。

ビジネスシーンでの「しがらみ」

ビジネス界では「しがらみのない意思決定」「しがらみに捉われない新規事業」といった文脈で使われることが多く、既存の関係性や前例に縛られない自由な発想や行動を強調する際に用いられます。

政治における「しがらみ」

政治の世界では「しがらみのない政治」「しがらみに縛られない改革」といったフレーズがしばしば使われます。特に無所属や新党の候補者が、既存の政党や利益団体との関係に縛られない姿勢をアピールする際によく使用します。

SNS時代における「しがらみ」の新しい形

近年では、SNSでの人間関係も新たな「しがらみ」として認識されるようになっています。オンライン上での人間関係の維持や、デジタル社会特有の同調圧力なども「現代のしがらみ」と表現されることがあります。

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世界の言語における同様の表現

興味深いことに、「しがらみ」のような概念は世界各国の言語にも存在します。

英語の “ties that bind”

英語では “ties that bind” (束縛する絆)という表現が「しがらみ」に近い意味で使われます。また、”social constraints”(社会的制約)や “entanglements”(もつれ)なども文脈によっては「しがらみ」と訳されることがあります。

フランス語の “entraves”

フランス語の “entraves”(障害、妨げ)も、人の自由を制限するものとして「しがらみ」に近い意味で使われます。

中国語の “纠缠” (jiū chán)

中国語では “纠缠” (jiū chán) という言葉が「しがらみ」に近い意味を持ち、煩わしい人間関係や社会的束縛を表現します。

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「しがらみ」に関する興味深い事実

「しがらみ」の実物が現代にも残っている

驚くべきことに、「しがらみ」の原義である水中の構造物は、現代の日本でも一部地域で伝統的な漁法として残っています。特に長良川の鵜飼いでは、魚を集めるための「しがらみ」が今でも使用されています。

方言における「しがらみ」

地域によっては「しがらみ」を「せがれ」「せいがら」などと呼ぶこともあります。また、意味も微妙に異なり、単なる柵や堰を指す地域もあれば、雪崩を防ぐための構造物を指す地域もあります。

文化財としての「しがらみ」

一部の伝統的な「しがらみ」は文化財として保護されています。例えば、岐阜県の長良川に設置される伝統的な「しがらみ」は、その構造や設置技術が無形文化財として認められています。

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「しがらみ」の語源から考える現代社会

最後に、「しがらみ」の語源と意味の変遷から、現代社会について考えてみましょう。

必要な「しがらみ」と不要な「しがらみ」

元々の「しがらみ」は、川の氾濫を防いだり魚を捕まえたりするための有用な構造物でした。同様に、現代社会における「しがらみ」の中にも、社会秩序を維持するために必要なものと、個人の可能性を不必要に制限するものが混在しています。

祖父
祖父

やよい、最後に一つ面白い視点を教えようか。元々の『しがらみ』は、川の氾濫から人々を守る大切な役割を持っていたんだよ

やよい
やよい

そうなんだ!でも今は悪いイメージで使われることが多いよね

祖父
祖父

そうなんだ。でも考えてみれば、現代社会の『しがらみ』にも、完全に悪いものばかりじゃない。例えば、家族や友人への思いやりや、社会のルールなんかは、ある意味『しがらみ』だけど、私たちの生活を守ってくれているものでもあるんだ

やよい
やよい

なるほど!『しがらみ』にも良い面と悪い面があるんだね。大切なのは、どの『しがらみ』を大事にして、どの『しがらみ』を断ち切るべきか見極めることなんだね

祖父
祖父

その通り!言葉の歴史を知ると、今の時代の見方も変わってくるものだよ

「しがらみ」との向き合い方

「しがらみ」という言葉の歴史を知ることで、私たちは現代社会における様々な束縛や制約と、より意識的に向き合うことができるようになります。すべての「しがらみ」を断ち切るのではなく、価値のある関係性や伝統は守りながら、不必要な束縛からは自由になる—そんなバランス感覚が大切なのかもしれません。

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まとめ:言葉の変遷が教えてくれること

「しがらみ」の語源と変遷をたどることで、日本語の豊かさと、言葉が社会変化を映し出す鏡であることがわかります。物理的な構造物を指していた言葉が、時代とともに抽象的な社会的・心理的概念へと変化していった過程は、まさに言語の生きた歴史です。

「しがらみ」は単なる言葉ではなく、日本人の社会観や人間関係の捉え方を反映した文化的概念へと進化しました。その変遷を知ることで、私たちは自分自身の「しがらみ」についても、より深く理解できるようになるでしょう。

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終わりに:言葉の歴史から学ぶこと

「しがらみ」の語源と変遷をたどる旅はいかがでしたか?一つの言葉の歴史を掘り下げることで、日本語の奥深さ、日本文化の特徴、そして人間社会の普遍的なテーマについて考えるきっかけになれば幸いです。

私たちが日常で使う言葉には、このように豊かな歴史と意味が込められています。「しがらみ」のように、元の意味から大きく変化した言葉は特に興味深いものです。言葉の起源や変遷を知ることは、私たちの思考や表現の幅を広げ、コミュニケーションをより豊かなものにしてくれるでしょう。

次回も、日常的に使う言葉の意外なルーツを探っていきます。言葉の冒険の旅に、どうぞご期待ください。

いかがでしたか?「しがらみ」という言葉一つを掘り下げるだけでも、こんなに多くの発見があります。みなさんの周りにある「しがらみ」について、少し違った視点で見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。言葉の歴史は、私たちの生きる現代社会を読み解くヒントに満ちているのです。

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